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巨刺は互刺の誤り、メースの解剖学
鷗外の妻、森しげ傳記
 
 
 
2 0 1 8 年
 
 

≪ すみません、ウィルス性の風邪でした ≫

肩甲骨の内側のてっぺんの肩凝りは、とてもイヤなものです。凝りと痛みが合わさって、常に手がそこへ伸びます。これを読んでいる人の中にも、少なからず経験者がいるのではないでしょうか。ツボの名前は「肩外兪(けんがいゆ)」といいますが、名前など分かったところで解決するものでもありません。

先日は、この痛みがこじれて、身もだえするほどになった患者さんが来院しました(40代前半、女性)。頭痛までひどくなったので、ペイン・クリニックにまで行ったそうですが、どうにもならなかったところ、お父上が当院を紹介してくださったということでした。肩こりぐらいで大袈裟な、と思うかもしれませんが、ひどくなると実際に居ても立ってもいられなくなります。

当初、私は頭蓋骨の位置に問題があるのだろうと思っていました。肩の痛みは左でしたが、頭蓋が異様に右に傾いていたのです。初日にそれを治したところ、痛みが2割程度なおりましたが、そのつぎに痛んだのは、胸椎の第一番、大抒(だいじょ)というツボでした。ここは背中から頭にゆく経脈、胸にゆく脈、肩を通って腕にゆく脈の三つが交差する大きな交差点のようなところです。

大通りまで出てきたのだからもう大丈夫だろうと思っていましたが、今度は肩甲間部の筋肉が痛み、やはり倦怠感が強いといいます。私は首をひねりつつ、痛む部分に深めに鍼をしました。

そうこうしているうちに今度は、私の肩外兪が痛みだしました。まったく身に覚えのない痛みで原因も不明ですが、患者さんとシンクロしています。翌日、ふつうに仕事をして帰宅すると、起きていられないほど体がだるくなって、子供とも遊んでいられません。完全に患者さんとシンクロしています。

そのまま寝てしまいましたが、夜中に汗をかいて目覚めました。ウィルス性の風邪(かぜ)だったのです。風邪(ふうじゃ)が体に入って、肩外兪に痛みを起すということを、私も身をもって経験しました。風邪(かぜ・ふうじゃ)というのは、寒邪(かんじゃ)ほどではない冷えが体に侵入したものをいいますが、ウィルス性の感冒も症状が似いてるので、風邪といいます。そしてこれは、中国医学の考え方では、太陽經脈から症状をあらわします。そして肩外兪も、太陽小腸経にある經脈なのです。

ウィルス性の感冒なら、患者さんとシンクロするわけですね…

 
 
 
 

≪骨盤孔・閉鎖孔の通刺法≫

骨盤の仙骨側下方に骨盤孔、その下方に閉鎖孔と呼ばれる、かなり大きな孔があります。殿部の下半にあり、鍼治療でこの孔に鍼を通せば、骨盤内部の治療ができます。

私の先生は、この孔を通す刺鍼をして坐骨神経痛の治療をしておられました。肝臓病で、腹部腸間膜静脈のうっ血を来している患者さんの治療にあたって、それを思い出した私は、同じ刺鍼で、このうっ血を改善できるのではと思い、やってみることにしました。結果ははたして奏功し、患者さんにも喜んでもらえました。

その後、骨盤内部を直接に鍼刺激できると、他にもおおくの症状を改善できることが分りました。便秘、婦人の陰部疼痛、大腰筋の痛みで骨盤上方からでは鍼のとどかない部位、腰・背部痛のはげしいもの、治りにくい腹脹などなど。この通刺法を応用して、この一年ほどの間に、私の治療の幅はずいぶんと広がりました。

鍼の治療をやっておられる専門の方ならご存知のことと思いますが、骨盤内部の血流が改善すると、頭痛が改善します。これも、いずれ試みてみてたい治療です。また、この2孔以外にも、たとえば仙骨孔も個人差はありますが通刺が可能な場合があります。治療の必要上、こちらから鍼を通すこともあります。

今まで不可能だったことが一つ可能になると、治療の幅がぐんと広がるのが鍼治療の面白いところです。しかし、こうした刺法のためには良い鍼が必要であることも確かです。コシがあって、術者の思うとおりに撓(しな)ってくれる鍼、あるいは柔らかく腹内部を傷つける恐れのない鍼、こうした鍼があってはじめて、鍼を扱う者も思い切った治療ができるわけです。こうした治療をするたびに、鍼を作ってくれた人に感謝せずにはいられません。

これから先もこうした発見があることを願っています。

 
 
 
 

< 水遊びしてヤケドして感謝 > 

< 1 > 毎日の猛暑で、夜中もエアコン暮らし。おかげで連日、軽く風邪をひいたような状態。頭痛もひどい。

< 2 > で、情ない話だけれど、冬に引き続きロキソニンのお世話に。鍼灸師が頭痛でロキソニンじゃねぇ・・・

< 3 > ところが先日の休診日、子供のお伴で府中のプール。年甲斐もなく、背中も肩も日焼けで真っ赤。一日中、ヤケドしたみたいにポッポと熱い、痛い。

< 4 > おかげで頭痛はすっかり治りました。思えば全身にお灸をすえたようなもの。熱で冷えを追い出したわけで、身を以て東洋医学を体験。

 
 
 
 

<ねんざ・・・冷やし過ぎ、固め過ぎです>

ねんざの治療の4原則というのがあって、 Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫、固定)、Elevation(挙上)といわれ、教科書に書いてあります。整形外科の教科書に書いてあることなので、スポーツをやっている人なら皆さんこれを守ります。しかし、冷却と固定については、やり過ぎなのではないかと思います。

先日の高校生の患者さん、バレーボールの部活で起こした重度の捻挫です。1週間後に試合だそうで、試合に出場することはあきらめましたが、せめてチームに入って同じコートに立ちたいということです。前に捻挫したときは、練習再開まで1ヶ月かかったそうですが、そんなにかかるものでしょうか? 私は1週間あれば試合に出られるのではないかと、期待して治療をはじめました。

治療院に来たときは、例によって足くびから下がキンキンに冷えています。氷水で冷やしたとのこと。ここまで冷やすのは、痛みを感じなくさせるためですが、冷やし過ぎです。炎症の熱は、積極的に外に出してやるのが治療のコツです。ニコス堂ではお灸で温め、その熱をコールド・スプレーで除きます。

重症の場合、5~6回、30分ほどかけて繰り返します。これで痛みが止まるわけではありませんが、治る重要なきっかけになります。家でも同じことをやってもらえれば治りは、ぐんと早まります。そして、冷やし過ぎにだけ気をつけてもらいます。夜は痛むかもしれませんが我慢です。

2日目はびっくりするほど腫れました。腫れはすぐに引きますから、心配する必要はありません。内出血も同じ。ニコス堂に来るまえに整形外科でシーネ(固定板)で固定したようですが、できれば固定もしないほうが早く治ります。シーネで固定するのは、歩けるようにするためだけで、回復には意味はありません。ニコス堂の治療は前日とおなじ。場合によっては、巨刺法も併用すると効果がありますし、経脈上から患部にひびくように置鍼しておくのも効果大です。

3日目は都心某所の捻挫専門の先生のところへ行ってきたそうで、シーネも松葉杖も使わないで歩いていました。スバラシイ。どんな治療をしたら、重度のねんざの3日目で、足をついて歩けるようになるのか? もちろん、治療法も聞かせてもらいました。

5日目、腫れが引いて、くるぶしが見えてきました。6日目には、ほぼ普通に歩けるようになりました。やはり、試合は無理かもしれません。この日は、はじめて患部に鍼を刺しました。ここまで来れば治ったも同然です。

捻挫の治療のコツは、繰り返すことになりますが、熱の処置です。熱が出ているかいないか、熱は中から湧き出すような熱か、中でこもったままの熱か、表にあるだけの熱かが触れて分ることが治療のミソで、こもった熱なら、どうすれば外へ引き出せるかが技術です。私の好きな治療のひとつです。

 
 
 

<患者さんとの会話・・・新型「うつ」>

「この一週間は、いかがでしたか?」
「少し上がってきて、楽でした」
「このまま、よけいに上がってしまう心配はありませんか?」
「どうでしょうか、ちょっと分かりませんが」

というわけで、この方(男性)は双極性の「うつ」の患者さんです。脈は脾虚を示して、腹証は鳩尾に痞えがあり、丹田が虚しています。

「今日は、右肩に痛みがあるので、それも治してほしいのですが」
「分りました」

頸・肩にしつこい痛みがあるのも、「うつ」の典型的な症状です。「うつ」でない患者さんでも、しつこい頸肩の痛みを訴える方がいます。凝りのひどいもの、というより、精神的なものが入り混じって、痛みになっているようです。こういう頸や肩の痛みは、その部分に直接、鍼をしてもお灸であたためても寛解しません。私は足の肝経に鍼をして取るようにしています。

「前回は、治療しているうちに眠くなったようですが、今日は眠くありませんか?」
「今日は、大丈夫ですね」

10年ほど前までの「うつ」の患者さんは、治る直前になると、治療室でもこんこんと眠る人がたくさんいました。現今では、従来型「うつ」と呼ばれる、旧タイプの患者さんです。治療をはじめたとたんに眠りはじめて、終わったあとも、フラフラになって帰ってゆく人がいました。ですので、治療院で眠りはじめると、治ってきたのだなと、私も安心できました。

「規則正しい生活をしなさい、昼寝はだめです、と病院で言われますが、眠くても起きていた方がいいのでしょうか?」というのも、当時、よく訊かれたことですが、ここまで来た患者さんには、眠った方がいいと思います、と答えていました。こうして十日か二週間ほど眠りつづける期間がつづいて、患者さんは「うつ」を脱してゆきました。

が、昨今の「うつ」は違います。患者さんは、最後まで眠くなりません。それだけ緊張が強いということだと思われます。ここまで来て、ある本を読んだことを思い出しました。

立川昭二「病気の社会史」(岩波現代文庫)という本です。中世ヨーロッパのハンセン病、中世末期のペスト、ルネッサンスの梅毒、産業革命初期の結核、現代のガン、20世紀のインフルエンザ、これらの原因は、その病原微生物にあると思われがちだが、それだけではない。病原微生物は、これら疫病が流行する強力な原因のひとつだが、それ以上に、流行する状況をつくり出している人間の社会におおきな原因がある、という論旨です。


目から鱗でした。私もペストや梅毒が流行したのは、ペスト菌や梅毒スピロヘータが蔓延したからだと思っていましたから。しかし、戦争が起こるたびに、戦闘で死ぬ以上の人が疫病で死んできた事実をつきつけられては、考えを変えるほかありません。

振り返って、現代(日本)は消毒の行きとどいた社会です。疫病といっても、冬になるとインフルエンザが流行するていどになりました。それに加えて、会社・役所・学校では、みなみな強い緊張の下に置かれています。これでは、「うつ」も姿をかえた新型「うつ」として流行して当然の社会です。(インフルエンザ・ワクチンの普及後は、それ以前の6倍のウィルスが冬の空気中にばら撒かれている、という指摘はさておきます)

消毒にしても、自分たちの住む日本の社会にしても、どうにかしなければならない、ということは誰もが承知している事実です。しかし、これが最も難しい問題です。バイ菌がいるかもしれないので消毒し、自分たちの職場や学校を徹底管理することが、もっとも簡単な道だったということでしょう。

 
 
 
 

<かぜ・インフルエンザの鍼灸治療>

この冬もインフルエンザが大流行しました。私自身もやられましたが、風邪・インフルの患者さんも、たくさん見えました。一部、インフルエンザは感染するから治療したくない、という意見もありますが、怖がっていても仕方がないし、30分ていど接触したところでうつるものでもないでしょう、ということで当院ではふつうに治療しております。
 

〔 18才 男性 〕

( 初 診 ) ひと月半前にかぜを引いたのが治らないまま、気管支炎となった。一か月前から咳が止まらない。少し前までは咳のために夜間不眠だったが、母親に鍼が効くと言われて、いっしょに来院した。鍼治療は、はじめて。
 
( 脈 )  浮 運動して身体を鍛えているので、身体壮健だが、診察のあいだも咳が出つづける。
( 治  療 ) 浮いた脈を沈めるため太白、太淵を取る。咳に対しては尺沢、照海を取る。運よく、ここまでで咳がおさまる。背部は、肩甲間部のはりを緩めるために、気海を取り、肺兪に灸をすえる。
 
咳が止まって楽になり、深い呼吸ができるようになったとのこと。後日、母親から「治療の後に、食事をして店を出るころには、目の二重がはっきりとしており、本人も身体が全然違う~、と言っていました」という葉書をいただきました。
 

〔 51才 男性 鍼灸師 〕

( 初  診 ) 子供から風邪をうつされた。2,3日前までが最盛期で、鼻水がひどい。ほかに頸から背中がつっぱる。この患者さんは、友人ではない同業者です。今度、私が風邪を引いたときには、ぜひお願いしますと頼みました。
 
( 脈 )  浮、数、右寸弱の肺虚証 
( 治  療 ) 太陰を補う本治方ののち、頸背を緩めるために上・次リョウ穴を取る。
    治療が終わった後は、ずいぶんと身体が楽になったという。
 

〔 70才 女性 〕

( 初  診 ) 大勢の風邪・インフルエンザの子供のいる場所で仕事をしているため本人にも感染し、ここ一か月ほど症状が治まりきらない。咳が長く続いたため、胸から腹にかけて捩れるような痛みがある。また、肩甲間部が痛い。
( 治  療 ) 気を引き下げるために三里、咳を静めるために、照海、太淵、尺沢を取る。長くつづく咳のために、恥骨の際まで筋張りがあり、気衝穴を灸で温めてから、細鍼を用いる。全身に鍼が響いて気持ちよいとのこと。胸肋関節が痛むというので、その場所に鍼をしたところ、やはり咳き込みが起こった。こういう時には、やはり患部付近は刺激しないものだと反省。

( 第二診 ) 2日後
咳が半分ていどに治まっている。治療の内容は、前回とほぼ同じ。

( 第三診 ) 一週間後
咳はずいぶん治まり、身体全体が楽になったが、咳き込みだすと止まらないことがある。治療内容は、前回とほぼ同様。大腿内側が痛みはじめて、これが突っ張ると歩けなくなるというので、ここは太めの金鍼を用いる。

 

 



 

<かぜの鍼治療・・・もっと詳しく>

= 風邪についての概論 =

鍼で風邪が治るのですか、とはよく尋ねられることですが、風邪のおこる理屈を、東洋医学的に理解していれば、無理なことではありません。

いっぱんに「風邪(かぜ)」と呼ばれるものは、中国医学でいう六淫の外邪(風・寒・暑・湿・燥・火)が、文字どおり外から人間のなかに入って、熱や咳、寒気や頭痛を引き起こすものです。

この場合の「風邪ふうじゃ」とは、要するに風にあたって体が冷えるということです。身体に冷えが入ると、身体は冷えを追い出そうと発熱します。その結果、冷えは身体から出てゆき、熱は汗とともに身体を去ります。熱 ⇒ 冷え、水(汗) ⇒ 熱 という、まことに哲学的な攻撃方法で人間は「かぜ」を治すことになるわけですが、これが古代医学の考え方です。

ですから、鍼灸治療で風邪が治せるというのは、鍼灸医学の理屈が理解できていて、その通りに鍼が扱えるということで、風邪が治せたら中級の入り口ていどの腕前といえるのではと思います。

 

= かぜの経過 =

もう少し冷えと熱の問題を考えると、古代医学のかぜの考え方がよく分かります。

① はじめは寒気がして体がふるえ、熱は出ません・・・冷えが体に入ったところ
② 次に熱が出て、身体か熱くなります。この熱で冷えを追い出すわけですが、冷えの方が強い、あるいは身体が万全でないと、冷えは体の中にどんどん入って来ます。
そうなると、以下の経過をたどることになります。

③ まず冷えと体の熱の攻防は、体の表面・上方で行われるため、頸肩が凝り、頭痛がおこります。

④ ③で治らなければ、喉が痛み、咳が出ます・・・冷えが体の少し深くに入るので、攻防の場所も深部になる

⑤ 次には身体じゅうの太い筋肉や、大きな関節が痛みます・・・さらに深部まで冷えがやって来るので、せめぎ合いが大筋や大関節で行なわれる

⑥ 次には中空臓器である胃腸に入って、症状をおこします。ここまで来ると、発汗して熱を外に出すといったことだけでは冷えを外に出せないこともあるので、和(薬で中和する)・吐(吐かせる)・下(下す)といった方法で、外に出すことも行なわれます。

⑦ 次には実質臓器である肝や腎にまで行くことになりますが、なかなかここまでは行きません。

上のような見方は、傷寒論という医書に書かれている見方で、中国の後漢の時代に確立されました(3世紀ごろ)。ウィルスや細菌を顕微鏡で見つけるということができるようになったのは、近代になってからのことですから、インフルエンザ、赤痢、コレラ、痘瘡、結核、ペスト、梅毒などのウィルスや細菌によっておこる病気も、同じ経過の中に見ようとしていたようです。ただし「風邪」やインフルエンザていどのものは外邪ですが、もっと爆発的な威力をもったものは、疫、癘と呼んで恐れられました。

さて鍼灸での実際ですが、基本的に脈が浮いているので、陰気を補うために太陰を補います。熱が上方にあつまっているもの(②,③)は、頭部から発散させるために髪際や、天柱、風池といった穴を瀉します。熱がまだ出ていないもの(①)は、大抒穴に灸をするなどして熱を出させます。

咳が出ているもの(④)は、尺沢、太淵などを取って咳を鎮めます。喉が痛んで高熱が出ているものは、井穴を瀉せば熱が下がります。

関節、太い筋腹が熱で痛むもの(⑤)は、四肢の末に近いところを通刺して熱を引きます。関節に直接に細めの鍼をして、熱を瀉すこともあります。

⑥は胃腸を動かすことが肝要になりますので、百会、内庭、行間穴といった穴を用いて、胃腸症状の改善をはかります。

 
 
 
 

<鍼灸のドブ掃除理論・・・患者さんとの会話>

先日の50代の女性の患者さん。半年もまえから鎖骨の上が凝りかたまり、その痛みが耳の下までと続くいう症状。
全身のようすを確かめると、肩甲骨のあいだの背中の筋がゴリゴリに凝って、腰痛もあります。

①鎖骨の上から側頸部の凝り、②肩甲間部の凝り、③腰痛の三つを同時におこしている人は、私の(みじかい)臨床歴にかんがみると、歯のかみしめ癖がある人です。
寝ている間に歯をかみしめていませんか、と訊ねると、「それはないと思います」
これ以上聞くとヤブだと思われかねないので、止めました。

①の治療としては、足の甲と手の親指の付け根に、③には足のくるぶしの上に鍼をしました。②はうつ伏せになって腰に鍼をしますが、さすがにおかしいと気づいた患者さんに、「なぜ、肩や背中に鍼をしないのですか?」と尋ねられました。

時々訊かれることですが、このときは私の先輩の言っていた言葉を思い出して、うまく答えられました。
いわく「ドブ掃除をするとき、もっとも効率のよい方法は、ゴミや泥の出口をまず作り、それからドブをさらう方法です。治療するうえで、まず手足に鍼をするのは、頸肩にたまっている泥の出てゆく口を作るのと同じで、そこへ汚れを誘導します。出口を作らずに泥をかき回せば、その時はゴミや泥が舞い上がって、凝りや痛みがなくなったように感じますが、時間がたてばまた底におなじゴミも泥も沈んで、何の解決にもなりません。末端に誘導先をつくって、汚れを導くというのが、昔からの鍼治療の基本なのです」

誰にでも分るいい譬えだと思います。このたとえ話をしてくれたのは、私の大先輩の森山先生という臨床家。私の先生の齋藤先生もそうですが、インターネットの完全な圏外にいる方々で、検索しても見つからないのが残念です。

 
 


 

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