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巨刺と互刺、その他
鷗外の妻、森しげ傳記
 
 
 
 
 

<セイリン、ブランド、プラスチックの柄>

セイリンというのはディスポーザブル(使い捨て)の治療鍼のメーカーで、日本では最大手。世界でも有数の大手で、静岡市に本社がある。もとは注射針をつくっていた。今となってはブランドであり、当然モノもいいけれど、使う人の手に合うかどうかは別問題で、残念ながら私には・・・

雨模様の患者さんも来ない午後、セイリンの営業氏がわざわざやって来たので、靴を脱いで上がってもらいました。
「どちらの鍼をお使いで?」
「神戸(かんべ)さんの鍼が好きで、長く使っています」
「カンベさんですか」
長身、色白、30過ぎの弁舌やわらかい営業職。神戸源蔵は知らないらしい。
「お宅の鍼も使っていますよ。細いのは私の手に合うので、もっぱら極細のものですが」
「今日は、新しく出る長鍼をお持ちしたのです」
取り出したのは柄がプラスチックの2寸5分(10cmほど)の鍼で、これはセイリンの特徴。プラスチックだと、高圧滅菌器にかけて再使用できないのである。
「プラスチックの鍼柄は、残念ながら使いにくいですね」
「そうですか?」
鍼を使わない営業氏に、こんな苦情をいっても仕方ないのかも。なら、なぜ社内で(内緒で)鍼の刺しっこをしないのだろう。マクラを相手に刺してもいい。

「プラスチックでは柔らかくて力が入りません。鍼体とプラスチックの接合部が、なじまないのも問題がありそうです」
と、私は神戸の鍼を見せる。鍼は筒になった金属柄に深く埋まり、ハンダでがっちり埋めてある。
「なるほど」と営業氏。
しかし使い捨ての鍼に、ここまでは求められないのも事実。
「使い捨ては、主にこれを使っています」
私が見せたのは、大阪のメーカー。
「よく売れていますね」
「値段が安いのもいいですが、ちょうどいい撓(たわ)み方です。セイリンは硬すぎるか、柔らかすぎるか極端なようです」これは事実です。柔らかい物はアルミみたいだし、硬いのはステンレスの鍼皿に落とすと、バワンと鳴る。

「当社は鍼先が自慢で、痛くないと評価をいただいています」
「よく存じあげています。しかし神戸の鍼は、わざわざ鍼先を曲げてあります」
「?」
身命をかけて痛くない鍼をつくっている会社にしてみれば、耳を疑う話です。
「体のなかで、わざわざ引っかかるようにして、治療効果が上がるようにしてあります」
ここまで聞いては、こんな所に来なければよかったと思っているかもしれません。スミマセン、鍼灸師なんて変人ばかりなので。
「お宅がディスポを売りにしているのは知っていますが、金のかかった、いい鍼をつくる部署があってもいいのでは?」これは私が本気で思っていることです。

まあ、いろいろと聞いて頂いて、営業氏の機嫌が悪くならないうちに、お開きにしました。しかし、さすがに最大手だけあって、スポーツ会場や医師の学会に出かけたり、工場見学、イベントを催したりと、鍼灸の裾野をひろげる努力をしているという話。こういうところは大手ならでは。立派だと思いました。

 
 
 
 
 
 
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