【 患 者 】26才 男性
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【受診までの経過】
ある日を境に、徐々に右半身に力が入らなくなってきた。
当初は、右腕が冷たく感じられるようになり、力が入らなくなった。
次には下肢にも力を入れることができない。顔面も右半分が動かず、味覚も会話も不自由になってしまった。
当院を受診したのは、発症後1ヵ月半経ってからだったが、この二週間ほど前から、少し会話ができるようになって回復してきたということだった。
実は、この患者さんが来院する少し前に、同じように半身不随の若い患者を、数回の治療で治した話を、私の師匠の齋藤先生から聞いていたばかりだった。 治療穴は、左肝兪と右脾兪だということであった。
齋藤先生のお話に力を得て、私も意気込んでこの患者さんの治療に当たった。
なお患者さんは、これまでに鍼治療の経験のない人であった。
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<1診> このような患者は初めてだったので、基本通りの診察を丁寧に行なった。
(脈)肺実証 少府、経渠を取ることによって、脾虚証に変化した。
(標)この日は、鍼治療が初めてということもあり、右照海・列厥に置鍼する奇経治療だけで終わりとした。この日は、若干下肢に力が入るようになった。 |
<2診>
(脈)脾虚症
この脈状が、患者さん本来のものであると考えられる。
先に書いたように、齋藤先生は、治療の際、左肝兪と右脾兪を用いたということであった。
しかしこの患者さんの場合、性格が非常に柔らかく、身体も筋というより、肌肉が発達している。私は、齋藤先生とは反対に、左脾ゆと右肝ゆを取ることにした。
この日は下肢を踏みおろす力が増し、手指も深く曲がるようになった。
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<6診>
(脈)相変わらず脾虚症である。
この日から、脾兪・肝兪には金の5番鍼を用いることにする。
また、右上・下肢に置鍼。
順調に、右半身の筋力は回復している。 |
<7診>
下肢は、ほぼ完全に筋力が戻った。
手指は、ほぼ完全に曲げることができるが、握力は今一つである。
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<10診>
最初、だらりと伸びたまま動かなかった上肢は、肩関節30度、肘関節120度まで曲げられるようになった。
手の握力は、私の手を握ってみて、かなりの力を感じるまでになった。
患者さん本人も、背中に金鍼で強く刺すようになってから、回復が早まったという。
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<13診>
自転車に乗ることができるようになった。
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