もう少し冷えと熱の問題を考えると、古代医学のかぜの考え方がよく分かります。
① はじめは寒気がして体がふるえ、熱は出ません・・・冷えが体に入ったところ
② 次に熱が出て、身体か熱くなります。この熱で冷えを追い出すわけですが、冷えの方が強い、あるいは身体が万全でないと、冷えは体の中にどんどん入って来ます。
そうなると、以下の経過をたどることになります。
③ まず冷えと体の熱の攻防は、体の表面・上方で行われるため、頸肩が凝り、頭痛がおこります。
④ ③で治らなければ、喉が痛み、咳が出ます・・・冷えが体の少し深くに入るので、攻防の場所も深部になる
⑤ 次には身体じゅうの太い筋肉や、大きな関節が痛みます・・・さらに深部まで冷えがやって来るので、せめぎ合いが大筋や大関節で行なわれる
⑥ 次には中空臓器である胃腸に入って、症状をおこします。ここまで来ると、発汗して熱を外に出すといったことだけでは冷えを外に出せないこともあるので、和(薬で中和する)・吐(吐かせる)・下(下す)といった方法で、外に出すことも行なわれます。
⑦ 次には実質臓器である肝や腎にまで行くことになりますが、なかなかここまでは行きません。
上のような見方は、傷寒論という医書に書かれている見方で、中国の後漢の時代に確立されました(3世紀ごろ)。ウィルスや細菌を顕微鏡で見つけるということができるようになったのは、近代になってからのことですから、インフルエンザ、赤痢、コレラ、痘瘡、結核、ペスト、梅毒などのウィルスや細菌によっておこる病気も、同じ経過の中に見ようとしていたようです。ただし「風邪」やインフルエンザていどのものは外邪ですが、もっと爆発的な威力をもったものは、疫、癘と呼んで恐れられました。
さて鍼灸での実際ですが、基本的に脈が浮いているので、陰気を補うために太陰を補います。熱が上方にあつまっているもの(②,③)は、頭部から発散させるために髪際や、天柱、風池といった穴を瀉します。熱がまだ出ていないもの(①)は、大抒穴に灸をするなどして熱を出させます。
咳が出ているもの(④)は、尺沢、太淵などを取って咳を鎮めます。喉が痛んで高熱が出ているものは、井穴を瀉せば熱が下がります。
関節、太い筋腹が熱で痛むもの(⑤)は、四肢の末に近いところを通刺して熱を引きます。関節に直接に細めの鍼をして、熱を瀉すこともあります。
⑥は胃腸を動かすことが肝要になりますので、百会、内庭、行間穴といった穴を用いて、胃腸症状の改善をはかります。 |