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難治症・希少症例
 

7. ≪顔面神経麻痺(ベル麻痺)に対する鍼灸治≫

 

<1例>

二日前に、雨で顔を濡らしてから、まず味覚がおかしくなった。次いで、顔の右半分が動かないことに気づいた。
病院のホームページを調べたところ、ベル麻痺と分り、治療には二週から一ヶ月入院して、ステロイド剤を使う必要があると知った。鍼治療でもう少し早く治らないかと思い、インターネットで当院を検索して来院。 

【患 者】40才 男性

【症 状】右顔面のまぶたが閉じない・頬の筋肉が動かない・唇を尖らすことができない。
本人は、鍼治療を希望しているものの、鍼に対して怖いイメージが強いと言う。初回は、ごく弱い刺激での治療となった。

第一診 (脈)細・沈 (腹)全体的に冷たい
ともかく、腹がはっとするほど冷たいので温める。同時に、足三里を取る。
(標)うつ伏せになって、肩井・膏肓に置鍼10分。
仰向けになって、顔面の陽白、魚揺、太陽、四白、下関、地倉、大迎に0番鍼で置鍼。同時に棒灸で顔面を温める。
(後)治療の後は、目を閉じてもらうと、眼瞼のすきまが半分になっているので、早く治るのではないかと思われた。しかし、本人の感覚では、あまりよくなった感じはしないとのこと。

第二診 翌日、来院。昨日より今朝のほうが、顔面の感じはいいと言う。
(脈)沈・細 太谿を取る (腹)昨日よりましだが、依然として全体に冷たい。三里に置鍼して、腹全体を赤外線で温める。
(標)右大杼に強い圧痛がある。ここに灸を二壮。ほか、肩井・膏肓。顔面の置鍼は最も重要なところだが、まだ恐怖感があるので、昨日と同様にごく弱く置鍼して、棒灸で温める。
(後)本日は背中の治療をした時点で、目は完全に閉じていた。

第三診 翌日、来院。一日仕事をして来院すると、昨日の来院時と同程度に症状が戻っているので、家で顔面、頸肩のマッサージをするよう告げる。
(治療)これまでよりも少し強めの刺激で刺した。

第四診 二日後に来院。舌の右半2/3の感覚がないことがはっきりしてきた。口を尖らせることは、まだできない。
(治療) 前回よりも、さらに強い刺激で治療。

第五診 二日後に来院。口を尖らせることは、2/3まで回復。口角がはばったい。右の鼻がつまる。舌は、右側面のみ麻痺している。
(治療) ノーマルな刺激で治療。

第六診 二日後に来院。舌の右奥に麻痺がある。口角の一部にはばったい感じがある。目は、つむると2ミリほど開いたままである。

第七診 三日後に来院。舌に麻痺はないが、違和感がある。口角のほんの一部に、はばったい感覚がある。目は完全に閉じられるが、動きに若干重さがある。

第八診 二日後に来院。舌に一部、違和感がある。口角のわずかな部分が硬く感ずる。瞼の動きが若干重い。
眼窩刺を加える。

第九診 二日後に来院。眼窩周囲のみ気になる程度。舌、口角の違和感はない。
眼窩刺。
本日で、治療をはじめて15日目であるが、ほとんど治癒とみる。五日後の来院を約す。

五日後、電話があり、気になる箇所は全くないとのこと。本日、治療の約束をしてあったが、取り止めとする。

 

 
 
<2例>
職場で背後から冷房風をうけて仕事をしていたことが原因で、左顔面神経の麻痺を起こした。
国立病院へ行ってステロイド剤を処方されたが、鍼で治るなら薬を飲むよりもいいと思って、世田谷区から来 院。
この例は、ステロイドなしで、どのように回復するかというケースで、非常にスムースに治癒した例である。
ステロイドのみの治療だと一ヶ月ほどかかると聞いていたが、このケースでは2週間半で治癒した。
発症後すぐに鍼灸治療に取りかかることができると、 かなり順調に回復することが分った。

【患 者】37才 女性

【症 状】左目が閉じない、左口角から水がこぼれる、額にシワを作ることができない

第一~六診 当初は処方されたステロイド剤を服みながら、鍼の治療をした。眼瞼の閉じないのが気になるとのことで、眼の周囲に金鍼を多用して治療。
熱心な患者さんだったので、遠いところを毎日通院してくれた。
また、自宅でも蒸しタオルで朝晩あたためる、マッサージするなどしてくれたおかげで、治療もはかどる。

第七診 ステロイドを服用したのは最初の5日のみ。服用中止してから、顔のむくみが無くなった。
この日から、額のシワがずいぶん出せるようになった。 
また、目頭から涙がもれることもなくなった。

第八~十診 回復は順調で、額のシワがどんどん作れるようになり、口笛もかすかに吹けるようになる。
左目も、しっかり閉じることができるようになった。

第十一診  (2日後)
口笛も吹ける。
額のシワに関しては、ほぼ左右対称になった。

第十二診  (3日後)
左目でウィンクできる。

第十三診  (5日後)
この日でほぼ治癒ということになった。