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難治症・希少症例
 

2. ≪婦人の陰部疼痛に対する鍼灸治療

 
婦人が陰部にかかわる痛みを訴えるケースは、ままあるものと思われる。というのも、電話で相談だけされることが時々あるからである。しかし、相談だけと言っても話しにくい事柄なので、相談者も当方も池の周囲を回るような話だけして終わりになってしまうことがほとんどで、治療にまで至ることのないのが現状である。
以前にも、一人だけ治療したことがあったが、強い鍼ができない患者だったので、その時々の症状を緩和するだけで、治癒には至らなかった。
今回の患者は、ぎっくり腰を契機にして陰部疼痛を発症したもので、大腿の付け根、外陰部から内陰部、恥骨上の腱、骨盤底筋、骨盤内の筋肉といった箇所が、日を追ってそれぞれに痛んだ。
医師による諸検査の結果は異常がなく、内分泌異常(=精神ストレス)、骨盤内のうっ血や、筋肉の弛緩などが、その原因と思われる。
陰部の疼痛を訴える婦人の多くは、このように様々な部分が日によって痛み、決定的な原因が特定できないものではないかと思われる(もちろん細菌性のもの、子宮ヘルニアなどの場合もある)。
また治癒までには、それ相当の日数を要する。今回のケースは、患者の不注意から二度にわたって悪化させているため、2ヶ月の間に26回の治療をして治癒に至っているが、この半分程度の治療回数と期間が必要なのではないかと考えられる。
 
【患者】72才、女性 体型・肥満型、既往歴・肝炎
 

<初診> ぎっくり腰を発症して来院。
右大腰筋を中心とした急性腰痛。これに付随して大腿付け根から会陰部にかけて、
引き攣れるような痛みがある。
ぎっくり腰の原因は精神ストレス(裁判)。
(脈)肝虚証 
(腹証)腹全体にうっ血がある
(治療) 脈、腹を整えた上で、大腰筋には2寸鍼を用いる。
右大腿付け根から会陰部の痛みに対しては、陰廉に寸六の金鍼を用いる。

 <第2診> 翌日
腰痛に対しては、昨日と同様の治療。
陰部痛は、本日は恥骨上の右腹直筋腱と思われる箇所にあり、金鍼の6番を用いる。

<第3診> 翌日
腰痛は順調に痛みがなくなっているが、陰部痛に関しては、両陰廉と恥骨上にある。

 
【全身調整】
腹腔内のうっ血と、内分泌異状があるのではないかと考え、帯脈、陰稜泉を取る。
同時に肝経の中都か蠡溝に灸をすえることにした(7壮)。
患者の脈は、たいてい肝虚か脾虚で、右季肋部が硬いか普通程度である。
その日の脈と腹証にしたがって、肝か脾を補うか、あるいは肝を瀉して全身を整える。
 
<第5診> 初診から一週間
腰痛はなくなり、陰部疼痛は日によって出方が異なる。
酷いときは、外・内陰部に針で刺すような痛みがあり、
下腹に陣痛のような、疼く痛みがあるときもある。
<第3診>に記した全身調整に加えて、その日の疼痛箇所に刺鍼。
概して肝経か脾経から鍼をして手技を加えると、腹や肝、後頭部にまで
響いて気持ちが良いという。

<第7診> 初診から2週間
無理をして旅行に出かけ、体を冷やして陰部痛悪化。
大腿内側まで引き攣れるため、周囲につかまって、やっと歩く。
下腹に、陣痛様のうずく痛みがある。
陰谷、肝炎点などに鍼をすると、肝にまで響いて気持ちが良いという。
こんなことになるのなら、旅行になど行かなければよかったと後悔することしきり。

<第9診> 
この日は金融の説明会に出かけて体を冷やし、やはり症状が悪化。
いつもの全身調整に加えて、仙骨後側から置鍼+台座灸を用いてあたためる。
 
<第15診> 初診から1ヶ月 ~<第20診>初診から1ヶ月+10日
治療しながらも不養生が重なるため、二度悪化したが、
ようやくベッドで体の向きを変えても痛みが出なくなった。
一人で立つことも歩くこともできなかった時に比べれば、夢のようだという。
この間、腹部に血が溜まっているような感じがすると訴える。
基本的な治療は、これまでと同じ。

<第21診>初診から1ヶ月半 ~<第26診>初診から2ヶ月
この間に、虎ノ門の病院で通例の肝臓の血液診察に加えて、今回は婦人科の検診。
本人は、婦人科に関する悪い病があるのではと恐れていたが、
画像検査をしても何もないと診断されて、がっくり。
陰部疼痛の症状は、下腹が重い、大腿が引き攣れるなどと訴えるが、
それも次第に治まって行き、26回目の治療をもって治癒とした。
大腿の引き攣れは内側から後側に移り、これは坐骨神経症状のように考えられる。