なぜ鍼治療で、「うつ」が寛解するのか?

 古来からの鍼灸医学の考え方では、患部治療とともに全身の治療・調整ということを心がけます。これを標治法(ひょうちほう)と本治法(ほんちほう)といいますが、患部治療(標治法)は文字通り患部に鍼を刺すのに対して、全身調整(本治法)では、患者の脈状と腹部を診て、患者の全身がどんな状態であるかを探り、これに対する治療をします。湯液(漢方薬)でいう「未病を治す」ということが、鍼灸ではこれにあたります。
 これがなぜ「うつ」症状の寛解に奏効するかといえば、

「気の流れが良くなる」からです。

 現代西洋医学では、人間の「うつ」症状の原因は脳細胞間に存在する化学伝達物質であるセロトニンが不足するからだとしています。確かに、物質の段階で観察すればそういうことなのでしょう。
 中国医学では、古代から世界を気の流れで見ました。世界は常に流れ来り、流れ去るもので、一定することがありません。生命というものを考える上では、実はこの考え方のほうが合理的です。というのも、生命自体が常に移り変わって、一瞬として留まっている物ではないからです。

 (実をいえば、西洋でもギリシアの時代には生命流体説をとっていて、四大という火・水・風・土の要素が入り混じって世界は構成されるとしていました。これが固体説になったのは内臓が病気の座とされるようになった14世紀からです。四大と中国の五行=木火土金水が、ほとんど同じであるのも理由があることなのでしょう)

 したがって、「気」というものも、「生命力」「生命の働き」と言い換えれば、現代人にも理解しやすいのではないでしょうか。

 さて、鍼の調整法によって、気の流れは良くなり、生命力は活性化されるとします。
 一方で、「うつ」状態・症状、うつ病とは、

@ 恐怖や不安に覆われ、焦燥感や精神運動の遅滞(感情面)
A 不眠・過眠、過食・拒食、呼吸が苦しい、体が重い(身体面)
B 集中力の欠如、決断困難(思考面)
C 無価値感、不適切な罪責感、自殺念慮(自己に対する否定)

 といった症状を現すものです。
 @〜Cのいずれを見ても、活動的な生命の働きが阻害された状態だといえます。
 おそらく皆さんにとっての疑問は、鍼を刺すことによって、なぜ「気の流れが良くなる」=「生命力が活発になる」のか、ということだと思います。

「鍼は神経を刺激するから効くのだろう」
「筋肉に鍼を刺すと、その刺激で乳酸が分解されるのでしょう」
皆さん、鍼治療の不思議をさまざまな言葉で表現します。
 しかし、鍼は人の手で刺すもので、秘訣はここにあります。
 鍼治療は物理刺激である以上に、鍼で患者さんの気を動かすことにあります。これを素手で行なう人もいます。指圧、あんまと言われる技術ですが、私は熟練の技術者に施術してもらったあげく、気の流れが良くなりすぎてフラフラになり、駅までの帰り道が分らなくなったことがあります。こうした人達は素手で治療しますが、私達は鍼という道具をもってするわけです。

 そんな荒唐無稽なことができる訳がないではないか、とおっしゃる向きが大勢いることも承知しています。私も駆け出しのころはそうでした。しかしながら、さいわいに師の薫陶を得て、その真似のようなこともできるようになったようなのです。

 

miyakushin

 

 






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